Présentation- トム・ブルビ・ヴァッシュについて
トム・ブルビ・ヴァッシュ(Tomme Brebis-Vache)は、フランス南西部、スペイン国境にほど近いピレネー=アトランティック県でつくられる、山の恵みをたっぷりと感じられるハードタイプのチーズです。この地域は古くから羊の放牧文化が根づき、オッソー=イラティなど名だたる羊乳チーズの産地として知られています。そこへ牛乳文化も加わることで、より奥行きのある風味のチーズが多く生まれています。
このチーズの最大の特徴は、牛乳(Vache)と羊乳(Brebis)をブレンドしたミルクを用いること。牛乳のやさしい甘みとまろやかさ、そして羊乳ならではのコク・ナッティな香ばしさが一つのホイールの中で美しく調和しています。低温殺菌されたミルクが使用され、伝統的な圧搾・成形ののち、およそ90日間の熟成を経て仕上げられます。
熟成のあいだ、自然な湿度と温度が保たれる熟成庫でゆっくりと風味が育ち、ナチュラルタイプの薄い外皮が形成されます。この外皮は食べることもでき、噛むほどに穀物や干し草のような温かみのある香りが感じられます。
口に含むと、最初に広がるのは牛乳由来の滑らかでクリーミーな質感。そのあとに羊乳特有のほのかな塩味やナッツのニュアンスがじんわり立ち上がり、最後は軽やかな余韻で消えていきます。ハードタイプでありながらも柔らかい口当たりで、食べやすく、それでいて記憶に残る複雑さが魅力です。
Histoire- トム・ブルビ・ヴァッシュの歴史
トム・ブルビ・ヴァッシュは、フランス南西部・ピレネー地方の長いチーズ文化の中から生まれた、伝統と工夫が息づく一本です。ピレネー山脈の麓では、何世紀にもわたり羊の放牧が行われ、羊乳を使ったチーズが生活の中で欠かせない存在となってきました。やがて19〜20世紀にかけて牛の飼育が広まり、地域の食文化に“ミルクの多様性”がもたらされます。
この変化の中で生まれたのが、羊乳(Brebis)と牛乳(Vache)をブレンドする技法です。理由は、単なる味の追求にとどまりません。
冬の厳しい山岳地帯では羊乳だけでは量が足りない時期があり、牛乳を合わせることでチーズづくりを安定させるための“地域の知恵”として自然に生まれたスタイルでした。
ブレンドによって生まれる香りの奥行きや質感のバランスは、やがてピレネーならではの個性として広く親しまれるようになります。村ごとに微妙に違うレシピがあり、各家庭や農家が自分たちの土地の味を反映させてきました。
現代のトム・ブルビ・ヴァッシュは、まさにその歴史を踏まえた“継承のチーズ”。
伝統的な圧搾・熟成の技法を守りながらも、衛生管理や熟成管理など現代の技術を取り入れ、より安定した品質と、ピレネーの味わい豊かなミルクの魅力を最大限引き出すスタイルへと進化しています。
Région-トム・ブルビ・ヴァッシュの生産地域
フランス南西部、スペイン国境と大西洋に挟まれたピレネー=アトランティック県は、山と海、そしてバスクとフランス文化が重なる食の豊穣地帯として知られています。ピレネー山脈の麓では羊の放牧が古くから行われ、澄んだ山の空気と多様な野草が生える草地が、ミルクに奥深い香りをもたらしてきました。オッソー=イラティに代表される豊かな羊乳チーズ文化はこの地域の象徴であり、そこに近代以降の牛の飼育が加わったことで、羊乳と牛乳の個性を活かしたブレンドチーズも生まれています。
山の暮らしが育んだ料理は素朴で力強く、白インゲン豆と野菜を煮込んだガルビュールや、鴨・ガチョウのコンフィ、熟成ハムのベイヨンヌなど、地域の気候と生活に根ざした一皿が並びます。一方で県の西側は大西洋に開け、バスク文化の影響も色濃く、タラのトマト煮込みやピキオ(赤パプリカの詰め物料理)、ガトー・バスクなど、香り豊かで彩りの美しい料理が食卓を彩ります。
Accord Vin et Fromage - 合わせるのにオススメなワイン
トム・ブルビ・ヴァッシュのまろやかな甘みと、羊乳由来のほのかなコクとナッツのニュアンスは、ワインとの相性を楽しむのにうってつけです。複雑ながらも優しい風味を持つこのチーズには、果実味と酸、そしてほどよいボディを備えたワインがよく寄り添います。
まず試していただきたいのは、ピレネー地方を代表する赤ワイン マディラン(Madiran)。濃い果実味としっかりめのタンニンが特徴ですが、トム・ブルビ・ヴァッシュのミルキーな質感と合わせることで角がとれ、まろやかで豊かな余韻が生まれます。あたたかみのあるチーズの風味を、力強い赤ワインが心地よく受け止めてくれます。
白ワインなら、同じく地元の ジュランソン(Jurançon) が理想的なペアリング。辛口タイプはすっきりした酸と果実味があり、チーズの甘みを引き立てながら味わいを軽やかにまとめてくれます。一方、わずかに甘みを感じるドゥミ・セックやモワルータイプを合わせると、羊乳のコクと果実の甘やかな香りが重なり、より豊かな印象に。
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