Présentation - 「トム・グリーズ」について

トム・グリーズ（Tomme grise Livradois）は、フランス中部のピュイ＝ド＝ドーム地方で生まれたセミハードタイプのチーズであり、その風味と歴史には深い魅力があります。パスチャライズされた牛乳から作られ、約15日間の熟成期間を経ることで、しっとりとした口当たりと優しいミルクの香りを実現します。独特な灰色の外皮が高貴なトムチーズの伝統を今に伝えています。

Histoire - 「トム・グリーズ」の歴史

オーヴェルニュ地方は、豊かな牧草地と火山性の土壌に恵まれ、古くから酪農とチーズづくりの文化が育まれてきました。そうした土地の伝統の中で生まれたのが「トム・グリーズ」です。灰色がかった外皮を持つことからその名がついたとされ、地域の人々によって何世代にもわたり受け継がれてきました。夏の高地放牧で得られるミルクをもとに、家庭や小規模な酪農家が木桶を使い、洞窟や石造りの熟成庫で静かに熟成させてきた歴史があります。その素朴でありながら確かな製法は、19世紀以降の協同組合の発展やチーズ市場の変化のなかでも守られ続けています。

Région - 「トム・グリーズ」の生産地域

トム・グリーズが造られているピュイ＝ド＝ドーム地方には、豊かな牧草地が広がっていることから酪農が盛んです。カンタルやサン・ネクテール、ブルー・ドーヴェルニュといったフランスを代表するAOPチーズがこの地から生まれました。特にサン・ネクテールは、地元の農家が代々受け継いできた伝統的な製法と、この土地ならではの湿度や土壌環境が風味に大きな影響を与えており、地域の誇りともいえる存在です。

また、この地域はジャガイモやレンズ豆といった素朴な農産物を使った料理も豊富です。火山灰を含んだ土壌で育つジャガイモは味わいが濃く、グラタンや煮込み料理に欠かせません。肉料理では豚肉や羊肉が多く用いられ、ソーセージや郷土料理のプティ・サレなどが親しまれています。さらに、豊かな自然を背景にしたきのこや栗、ベリー類といった山の恵みも、季節ごとの食卓を彩ってきました。

また、ワイン文化も忘れてはならない要素です。リムネやコトー・ドーヴェルニュといった火山性土壌に育まれたワインは、軽やかでミネラル感に富み、地元のチーズや肉料理と相性が良いとされています。

Accord Vin et Fromage - 合わせるのにオススメなワイン

トム・グリーズは、オーヴェルニュの風土を映した素朴でありながら滋味深いチーズです。そのしっとりとした口当たりと、ナッツやバターを思わせるやわらかな香りは、赤ワインとの組み合わせでより一層引き立ちます。例えば、軽やかな果実味と程よい酸味を備えたオーヴェルニュのピノ・ノワールやガメイは、チーズのまろやかさに寄り添いながら爽やかな余韻を与えてくれます。一方で、白ワインではシャルドネのようにコクがありつつもミネラル感を感じさせるものを合わせると、チーズのクリーミーさに奥行きを与え、全体の調和が生まれます。

また、ワインだけでなく、地元で親しまれてきたパン・ド・カンパーニュやライ麦パンにのせて楽しむと、外皮の香ばしさとチーズの旨みが溶け合い、素朴な魅力が際立ちます。さらに、クルミやヘーゼルナッツといったナッツ類や、リンゴや洋梨など果実の自然な甘みを添えれば、チーズの風味に軽やかなアクセントが加わり、より豊かな食体験となるでしょう。