Présentation- トム・ド・サヴォワについて
トム・ド・サヴォワ(Tomme de Savoie)は、フランス東部、アルプスのふもとに位置するサヴォワ地方に古くから伝わる、素朴で奥深い魅力をもつチーズです。名前にある“トム(Tomme)”とは、フランス各地で作られる中小型の農家製チーズの総称。なかでもこの「トム・ド・サヴォワ」は、その代表格として知られています。
また、このチーズは、無殺菌の生乳を使いながらも加熱せず、軽く圧搾する“非加熱圧搾タイプ”。熟成は1〜3ヶ月ほどで、木板の上で何度も手作業で反転させながら育てられます。その外観は、やや灰色がかった自然な風合いの表皮に覆われ、しっとりとした質感とやさしいミルクの風味が口いっぱいに広がる、素朴で穏やかな味わいです。
Histoire- トム・ド・サヴォワの歴史
フランス東部、サヴォワ地方。アルプスのふもとで暮らす人々にとって、雪に閉ざされる長い冬を乗り越えるためには、保存性に優れた滋養ある食べ物が欠かせませんでした。そんな土地の暮らしの中から生まれ、今も愛され続けているのが「トム・ド・サヴォワ」です。
“トム”という名前の由来は、山岳地帯の地方言語で「小さな円盤状のチーズ」を指す言葉。実際にこのチーズは、家庭や小さな農場で、少量のミルクから気軽に作られてきたものでした。生クリームやバターを作った後の脱脂乳を無駄にせず、食卓の一品として再利用する――そんな、無駄を出さない暮らしの知恵が形になったのがこのチーズだったのです。
その起源は16世紀頃のサヴォワ公国時代まで遡るとも言われていますが、長らく正式な記録には残されず、農民たちの日常に自然と根づいてきた、まさに“暮らしの味”と言える存在です。
時代が進み、19世紀になると、サヴォワでも大型チーズ「ボーフォール」のような共同製造が主流となり、トムのような小型チーズは一時影を潜めることになります。しかし、限られた資源でも作ることができる利点や、素朴ながら奥行きのある味わいが見直され、20世紀後半には再び注目されるようになりました。
そうした動きを受けて、1996年にはEUのIGP(地理的表示保護)認証を取得。2006年以降は品質の証として、表皮に「Savoie」の焼き印が押されるようになります。この焼き印こそが、本物のトム・ド・サヴォワであることを示す、信頼のしるしとなっているのです。
今日では、サヴォワ地方とその周辺で、木の棚板の上で1~3か月かけて丁寧に熟成され、ナッツや干し草のような香りとともに、どこか牧歌的な味わいをたたえたチーズとして多くの人々に親しまれています。
Région-トム・ド・サヴォワの生産地域
この地で生まれ育った料理の多くは、保存性が高く、栄養価があり、家族や仲間と囲んで楽しめるものばかりです。代表的なのが「ラクレット」。加熱してとろけたチーズをじゃがいもやシャルキュトリー(ハムやソーセージ)にかけていただくこの料理は、サヴォワの家庭にとって冬の定番。専用の器具を囲んで語らいながら味わうひとときには、寒ささえもごちそうに変えてしまう力があります。
もう一つの名物が「タルティフレット」。こちらは、じゃがいも、ベーコン、玉ねぎに、ウォッシュタイプのチーズ「ルブロッション」をたっぷりのせて焼き上げたグラタンのような料理で、濃厚で香り高く、アルプスのエネルギーを感じさせます。こうした郷土料理の背景には、夏の間にたっぷりと草を食んだ牛たちのミルクを、保存可能なチーズへと変える山の知恵があります。
実際、サヴォワ地方はチーズの宝庫でもあり、「ボーフォール」「アボンダンス」「トム・ド・サヴォワ」など、地域の名を冠した個性豊かなチーズが数多く造られています。それぞれのチーズが、その土地の標高、牛の種類、季節によって風味を変えながら、料理の中でも単体でも主役を張れる存在感を放っています。
Accord Vin et Fromage - 合わせるのにオススメなワイン
トム・ド・サヴォワは、サヴォワ地方の素朴でやさしい味わいをそのまま映したようなチーズです。しっとりとした口あたりと、ナッツや干し草を思わせる香り、ほどよい塩味と穏やかな酸。そんなチーズに合わせたいのは、やはり同じ土地で育まれたワインたちです。
なかでもおすすめなのが、サヴォワ地方で広く栽培されているジャケール種の白ワイン。この品種から造られるワインは、軽やかでみずみずしく、ミネラル感に富んでいます。トム・ド・サヴォワのやわらかなコクと自然に溶け合い、口の中をすっきりと整えてくれるので、食事の始まりにぴったりの組み合わせです。チーズのミルキーさに対して、ワインが爽やかに寄り添うこのバランスは、派手さはなくとも何度でも楽しみたくなる相性のよさです。
もう少しコクのある味わいを求めるなら、アルテス(ルーセット)から造られる白ワインも好相性です。やや厚みのあるボディに、洋ナシやアーモンドの香りが感じられるタイプであれば、熟成の進んだトム・ド・サヴォワと特に良いハーモニーを見せてくれます。チーズの旨みをふくらませながら、最後はワインの酸が後味をキリッと引き締め、もうひと口食べたくなる後押しをしてくれます。
赤ワインを合わせたい場合は、モンドゥーズのような軽やかなサヴォワ産の赤を選ぶとよいでしょう。タンニンが穏やかで、黒系果実とスパイスの風味がチーズの熟成香とよく重なります。あたたかい季節なら少し冷やして、カジュアルなアペロスタイルで楽しむのもおすすめです。
エルワンおすすめのチーズペアリング
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アルプスの涼風を思わせるような爽やかさとレモンのニュアンスが、トム・ド・サヴォワの優しい味わいを引き立てます。 |
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クレマン・ダルザス きめ細やかな泡が口の中をリセットし、後味を軽やかに。
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